IAMASの卒業制作。

ヘッドフォン用の音データ2chと振動子用の振動データ64ch
合計66chのサウンドトラックと体験するための椅子と
そのトラックを再生するプレイバックシステムを作成。
(展示時は機材手配の都合で音データ2ch +振動データ32ch = 34ch)

普段の日常生活では意識を向ける事が無い5hz~20hzの超低周波や
振動子によって体内から発生する音を組み合わせる事で、
スピーカーでは実現出来ない音環境を提供し未知なる音響体験を提供する。

———–詳細—————

本作品は64チャンネルの振動と2chの音
合計66chからなる5分間の没入型の体験型作品です。

体験者は振動子が内蔵された椅子に座って
ヘッドホンを取り付けた状態で完全な暗闇で作品を体験することが出来ます。

体験者は椅子に仕込まれている複数のVibratorによって体の至る所で振動を体験し、
骨や皮膚組織が振動することで発生した音信号は鼓膜を経由せず
直接蝸牛に到達し骨導音として体験することが出来ます。

また、ヘッドホンから出る2chの超低周波信号は気導音として
鼓膜を通じて蝸牛に到達しますが、
骨導音と気導音の周波数をずらしたりタイミングをずらすことによって
振動子が取り付けられている部分以外で音が発生している様に
体験者に錯覚をさせることが可能となります。

そのほか、骨導音と気導音で加算合成を行うことで
通常のシンセシスでは体験出来ない複雑な音響を生成するなど
様々な手法を確立し、本環境でしか生成出来ない複雑な音響と
振動体験を組み合わせることで64ch + 2chの5分間の楽曲を制作しました。

椅子のデザインに関しては、
様々な体型の方の身体にきちんとフィットする様
振動子の固定にバネを使用しています。
また、振動子は体内に振動をより効率良く伝えるために
バルサ材を使用しました。

本作品は2003年の4月より2004年の2月まで約
10ヶ月をかけて制作が行われました。

加工、材料協力を株式会社マテリアル、
振動子デバイス協力をオンキョーリブ株式会社、
超低周波などが生体に与える影響に関するリサーチ協力を
Masaki Teruoka、そして椅子の設計をBaliのKenichi Togawaと
Kaname Arauchi、そしてIAMASの先生や同級生を始め
数多くの友人のボランティア協力、
そして家族の応援によって実現することができた。
感謝の念をここで改めて表明致します。
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サーベイ
低周波、超低周波が身体に与える影響

・20Hz,100dBで心拍数は1分で減少,1時間で増加
・25Hz,110dBで呼吸数は1分で減少,1時間で増加
・20Hz,120dB,30分で呼吸困難
・25Hz,172dBで呼吸停止(犬)
・10Hz,100dBで脳波のα波減少(緊張状態)
・10Hz,130dBで胃と共鳴(犬),悪心,嘔吐
・20Hz,120dBでまばたきの増加
・10Hz,105dB,20分で眼振(周囲のものが地震の時のように揺れて見える)
その他,圧迫感,めまい,不安感など。

・空気振動(超低周波音)のうち,人体へ吸収されるのはわずか2%(at100Hz)。
良く伝わる部位は,人体中の空洞(肺,鼻,腸(腸内ガス),中耳)。
・周波数帯域別の空気振動を感じる部位
(被験者は耳の不自由な方で下記の””耳””は聴覚の意味ではありません)
[8-12Hz]耳,胸部,臀部,腹部。[12-160Hz]胸部。[200Hz]脚。
[250Hz以上]耳
・別の実験(健常者)[30-50Hz]脚。[60-70Hz]胸と頭。
・弱い振動では皮膚の血管拡張,強い振動では血管収縮。
・低振幅高周波音を加えれば,主要な拮抗筋が相互に収縮する。
・鎮痛効果がある(頭痛[70-90Hz],腰痛[50-55Hz])。
・別の実験(頚,肩の痛み[68Hz],頭痛[86Hz])。
・背面からみぞおち(腹腔神経叢)の刺激により
暖かさが全身にひろがり,浮遊感が得られた。
・40Hzは脳を良く刺激(視床野の活性化)。
・固定周波数でうなりを付加することによりモーション効果
(船で移動していくような感覚)が得られた。→無重力感覚、浮遊感覚へ発展。
・血栓症,急性炎症などの方の場合には振動療法は禁忌。

参考論文

“”超低周波音の人体に及ぼす影響””
岡本健・吉田昭男・前田規久子*井上仁郎・田久浩志
“”The Influence of Infrasound upon Human Body””
Ken OKAMOTO,Akio YOSHIDA,Kikuko MAEDA* Jinro INOUE and, Hiroshi TAKYU
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jibi1954/30/3/30_414/_pdf

“”生活環境における低周波空気振動の計測および認知反応に関する研究””
岡田茂
“”Study on the Measurement of Infrasound and Perceptible Response to Infrasound in Life Environment””
Shigeru OKADA
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jshhe1931/56/5/56_5_236/_article/-char/ja/

“”低周波音の人体に及ぼす影響の検討””
-トラック運転手のアンケート調査-
河野淳・山口秀樹・舩坂宗太郎
“”Effects of Infrasound on Humans””
-A Questionnaire Survey of 145 Drivers of Long Distance Transport Trucks-
Atsushi Kawano, Hideki Yamaguchi and Sotaro Funasaka
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jibirin1925/84/9/84_9_1315/_article/-char/ja

“”超低周波空気振動に関する実験的研究””
大阪市立大学医学部耳鼻咽喉科学教室(主任:中井義明教授)妙中啓子
“”A STUDY ON THE EFFECT OF INFRASOUND””
KEIKO TAENAKA, M.D.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jibiinkoka1947/92/9/92_9_1399/_article/-char/ja/

低周波空気振動に対する住民反応および生理的影響に関する研究
II.生理的影響ならびに影響発現機序に関する実験的研究
金沢大学医学部公衆衛生学講座(主任:岡田晃教授)
谷島勘次
https://jglobal.jst.go.jp/detail?JGLOBAL_ID=200902086744067816&rel=0

物理的環境要因
(騒音、振動、非電離電磁波)の生体影響
(第2回京都大学基礎物理学研究所研究報告書『電磁波と生体への影響-作用機序の解明に向けて-』,研究会報告)
中村,裕之
https://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/handle/2433/110170

参考書籍

音響技術No.115(vol.30, no.3) 2001年9月
特集:低周波、超低周波音

振動音響療法―音楽療法への医用工学的アプローチトニーウィグラムhttps://www.amazon.co.jp/dp/4890071342/ref=cm_sw_r_tw_dp_U_x_tqHECb0VWNS0K

触覚の世界―実験現象学の地平ダーヴィットカッツhttps://www.amazon.co.jp/dp/4788508338/ref=cm_sw_r_tw_dp_U_x_gxHECb5KXAS1Q

タッチ(神経心理学コレクション)岩村吉晃https://www.amazon.co.jp/dp/4260118552/ref=cm_sw_r_tw_dp_U_x_OxHECb6D9ZPR3

触覚と痛み東山篤規https://www.amazon.co.jp/dp/4892426423/ref=cm_sw_r_tw_dp_U_x_lyHECb1DW6FS3

皮膚は考える(岩波科学ライブラリー112)傳田光洋https://www.amazon.co.jp/dp/4000074520/ref=cm_sw_r_tw_dp_U_x_pzHECb8B9WARA

設計:戸川憲一、荒内要(Bari)
アルミ加工、提供:株式会社マテリアル
振動子提供:オンキョーリブ株式会社
リサーチ協力:照岡正樹
Special thanks to all my friends and family !!!!